鶴の民話
つる柿(周南市)
昔、秋の柿の木の上でからすが熟柿(じゅくし)を食べていました。
 そこへ親子の鶴がやって来ました。子鶴はおなかをすかせていたので、しきりに熟柿(じゅくし)が食べたいと
親鶴にせがみました。しかし、鶴は木の枝にとまることができません。
そこで親鶴はカラスに向かって「私たちも柿を落として食べさせて下さい。」と頼みました。
意地悪のカラスは、まだかたくて渋い柿の実を投げつけて、
カァカァと笑いながら飛んで行ってしまいました。この様子を見ていた一人の百姓が木に登ってよく熟した柿を二つもいで親子の鶴に食べさせてやりました。幾日かたったある日のこと、この百姓の子供が柿の種をのどに詰まらせ、今にも死にそうになりました。するとその時、あの親鶴が飛んできて、長い口ばしで柿の種を子供ののどから取りだしてくれました。
百姓はたいそう喜びました。そして、こう言いました。
「八代の柿はうまいんじゃが、種が多くて困っちょる。種がなけりゃあ、八代の柿は周防一じゃが」これからです。八代の柿は木になっている間は種があっても、干し柿にするとどうしたわけか、種がすっかりなくなってしまうのです。
こうして八代では、干した柿を干し柿とも、つるし柿とも言わず、鶴の恩返しの「鶴柿」と言うようになったそうです。

つる豆腐(周南市)
 昔々、八代の里に年老いた父親と親孝行な息子が住んでおりました。家が貧乏で、息子が毎日山から薪を作っては町へ売りに行き、やっと暮らしをたてえいました。
 あるひ、息子が町から帰ってくる時、峠で一人の猟師が山田で餌を食べている一羽の鶴を鉄砲でねらっているのを見つけました。
息子は急いで小石を拾うと、鶴の方に向かって投げました。
鶴が驚いて飛び立つと同時にズドンと鉄砲がなりました。危ないところを鶴は助かりました。
息子に気づいた猟師は、息子のじゃまを知ってひどい剣幕で怒りました。息子は仕方なく、せっかく町で得た(まき)のお金を差し出してやっと許してもらいました。家に帰って父親に話すと父親は「それはよいことをした。と息子をほめました。
夕方、表の戸をトントンとたたく音がしました。開けてみると、若い美しい女が立っていて、「雪に閉じこめられて困っております。どうか一晩泊めて
下さいませ。」と頼むのです。「こんな見苦しいところでもよければどうぞ。」と招き入れ、いろりに薪を入れあたらせまた。翌朝親子が目を覚ますと昨夜から水に浸しておいた豆で女が豆腐をたくさん作っていましたのでビックリしました。「私は旅の者ですが、しばらくここに置いて下さいませ。」と言って、それからは毎日豆腐作りに精をだしました。できた豆腐を町で売ると評判がよく、どんどん売れていきました。一年もたつうちに親子の家は大変豊になりました。父親は女に「どうか息子の嫁になって下さい。」と。

「ありがたい話ですが、実は私は峠で助けていただいた鶴でございます。
ご恩返しに今日まで働かせていただきましたが、お二人のくらしも豊かになったようですので、私はこれでお別れさせていただきます」そういうと女はあっと驚く二人をあとにして鶴となって天高く舞い上がり、どこへともなく姿を消してしまいました。
つるの子観音
むかし、れんげ池とよばれる美しい池がありました。
池にはスイレンの花が美しく咲きみだれ、岸には観音様のお堂があって、そのそばに大きな松の木がおいしげっていました。
 毎年、この松の木に雪のような真っ白な鶴が一羽、どこからか飛んできては、卵を産み暖めていました。
 ところが、ある年のこと、村の若者たちが、いたずら心から鶴の卵を取ってしまったのです。
「鶴の卵って、いったいどんな味がするのだろう。」
「一つ、食べてみるべぇ。」
若者たちは、炭焼小屋に集まって、卵を鍋に入れて、ゆで始めました。
するとその時、小屋の戸がスーッと開いて、白い髪の毛を垂らし、鶴のようにやせた、背の高い老人が現われて、「若い衆、その卵を食べてはならん。観音様の罰があたるぞ。鶴は観音様の使いなのじゃ。卵を早く返せ。」そう言うと、老人は消えてしまいました。
 若者たちは驚いて、急いで卵を巣に返しに行きました。すると、鶴が舞い戻って来て、若者たちが半分茹でかけた卵を温め始めました。
「鶴よどうか許してくれ。」「観音様どうか許してください。」
 若者たちは、百日ものあいだ、朝早くかられんげ池の水をかぶっては身を清め観音堂に熱心にお参りをして謝りました。すると、百日目の朝、「ピピピ、ピピピピ・・・・」
 卵から鶴の雛が孵ったのです。「ああ、良かった!」
「観音様ありがとうございました。」
若者たちから話を聞いた村の人々は「その老人は、きっと観音様に違いない。」と言って池のほとりの観音堂を立て直し、つるの子観音≠ニ呼んでお参りをして何時までも大切にしたそうです。 
つるの恩返し
昔、あるところに、山の木を切って暮らしている、一人の若者がいました。
ある日のこと、若者はいつものように山で木を切っていると、一羽の鶴が空から落ちてきて、苦しそうにバタバタと、もがいていました。
若者が近寄って見ると、背中に一本の矢が刺さっているではありませんか。「おおかわいそうに」
若者は矢を抜いてやり、鶴を谷川へ連れて行って、傷口を洗ってやりました。「よしよし、これで大丈夫。これからは、気をつけて飛ぶんだよ。」そう言って鶴を放してやりました。
鶴は嬉しそうに羽ばたきながら、若者の上を三度回って、「カウカウ」と鳴いたと思うと、空高く飛んで行きました。
それから、しばらくたったある晩のことです。若者の家の戸をトントンと叩く者がいます。
戸を開けてみると、見たこともない美しい娘が立っていました。そして、「どうか私を貴方のお嫁さんにしてください。」と言うではありませんか。若者は嬉しく思いましたが、「私はとても貧乏なので貴方のような人を、お嫁さんにはできません。」と断りました。
でも、娘は何度も、「どうか、お嫁さんにしてください。」と頼むのです。
そこで、若者は娘をお嫁さんにしました。
お嫁さんはくるくると良く働いて、家の中を綺麗に片づけてくれたり、美味しいご飯も作ってくれました。
ある日のこと、「私は布を織るのが上手です。どうか機場を建ててください。」と言います。
若者は早速小屋を建てて、機をおいてやりました。お嫁さんは喜んで機場は行きましたが、小屋へ入る前に「私が機を織るところを、決して見ないように、どうか約束をしてください。」と言います。
若者は約束を守って機場を覗かずに、じっと待ちました。
やがてお嫁さんは、機場から出てきました。痩せて、疲れたようですが、手にはとても美しい布を持っていました。布を若者に渡すと、お嫁さんは言いました。「町へ行って、これを売っていらっしゃい。」
若者が布を持って、町へ売りに行くと、「これは素晴らしい布じゃ。」
「こんな美しい布は見たことがない。」と、大評判になりました。そのことがお殿様の耳に入り、お殿様が百両のお金で買ってくれました。
若者は大喜びで家に帰ると、お嫁さんに、また布を織ってくれるように頼みました。
こんな事が何回も続いて、若者はすっかりお金持ちになりました。
お金が貯まればたまるほど、若者はお金が欲しくなりました。ところが不思議なことに、お嫁さんは布を一反織るたびに、どんどん痩せていきます。それでも若者は、お金が欲しくて、「もう一反、織ってくれ。」と頼みました。お嫁さんは弱々しく息を吐いて、「では、これが最後ですよ。これ以上布を織ったら私は死んでしまうでしょう。」 
そう言って機場へ入って布を織り始めました。キイコ バッタン キイコ パタパタ
若者は、あんなに美しい布をどうやって織るのか見たくてたまらなくなりました。
お嫁さんには見てはいけないと言われたことを忘れて、そっと機場を覗いてしまいました。
すると−。なんと、そこには痩せて羽も少なくなった一羽の鶴が、残り少ない自分の羽を抜いては、それを糸にして布を織っているのでした。
若者は飛び上がるほど驚きました。
やがて、お嫁さんが布を持って機場から出てきました。
「見てはいけないと、あれほどお願いしたのに、とうとう貴方は見てしまいましたね。」と悲しそうに言いました。
「私は。いつか貴方に助けてもらった鶴です。ご恩返しをしたいと思ってやってきました。でも、これが最後の布です。姿を見られてしまいましたので、もうお別れしなければなりません。」
そう言うと、お嫁さんは痩せた裸の鶴の姿になって、空へ舞い上がり、カウカウと悲しそうに鳴いて、遠く遠く飛んで行ってしまいました。
鶴の笛(林芙美子)

昔、ききんのつづいた年がありました。その村には鶴が大変たくさんいました。鶴たちは毎日、たべものを探して歩きましたけれど、どこにもたべものがないので、気の早い鶴はみんな旅仕度をして遠くへ飛んでゆきました。
すると、足の悪い鶴と、そのお嫁さんだけが、その村へのこることになりました。足の悪い鶴は、みんなのいなくなったさびしい沼地のふちの(よし)のしげったところに立ってみんなが飛びたって行った空をみていました。
 ある日、鶴のお嫁さんは水ぎわのなかを、一生懸命くちばしでたべものを探していました。小魚でも一ぴきぐらいいないかしら、どじょうでもいい、もう、今朝はさすがにふらふらになって一生懸命、あっちこっち探していました。朝陽がきらきら光って広い空に浮雲が一つ西の方へゆるく流れてゆきます。若木の林のなかは、ところまだらに陽の光が煙っていて美しい景色でした。
すると、しばらくして、何ともいえない美しい笛の音色がきこえました。おや、何だろうと思いました。いままでおなかのすいていたお嫁さんの鶴は、ふっとおなかのくちくなるような気がして、その美しい笛の音色をきいていました。
そおっと笛の音のする方へ歩いてゆきますと、足の悪い鶴が横笛を吹いていました。

 「おやおや、あなたが笛を吹いていたのですか。」  お嫁さんの鶴がたずねました。
  足の悪い鶴ははずかしそうにふりかえって、 「さっきね、何かないかと思って沼のなかを探していたのさ。そしたら、カチンと固いものがくちにさわったので、あわててくわえたらこの笛だったのよ。何だろうと思ってね、いろんな風にくわえていたら、ふっと竹の小さい穴からきれいな音がしたのさ、もう、おなかのすいたのも忘れて、これを吹いていたのさ‥‥。」 「まア、そうでしたの、とてもきれいな音色でびっくりしました。何だか、昔のたのしいころのことがうかんで来て、とても気持がよくなりましたわ。」笛の音色があまりきれいなので、おなかのすいた二羽の鶴はいままで食べることばかり考えて、いつもくよくよしていたことが馬鹿々々しくなりました。
自分たちを置いて勝手に飛んでいってしまったたくさんの鶴たちを恨んで、ふたりは毎日ぐちばかりいっていましたけれど、笛をひろってからは、笛の音色があんまりきれいなので、二人はとぼしい食べものに満足して、お話しをすることは、たのしかったおもい出話や、遠くに行った鶴たちが幸福であればいいという話ばかりになりました。

「ねえ、わたしは、笛の音色をきいていると、こんなみじめな年ばかりじゃなく、いまに、とても豊年のつづくいい年も来るような希望が出来て、すこしもがっかりしなくなりました。今日はすこし、ちょっと遠くまでお魚をさがして来ますから、時々、その笛を吹いて下さいね。」
 お嫁さんの鶴がいいました。
 「ああいとも、けがをしないように行っておいで。」
 お嫁さんの鶴はすぐ飛び立って行きました。しばらくすると、小さい沼のところへ来ました。沼の上に時々水しぶきがしています。おや何だろうとねらいをつけて飛びおりると、いままで見たこともないたくさんの小魚が群をなしているところがありました。お嫁さんの鶴は胸がどきどきしてその魚をとりました。さっそく、おみやげをつくって笛の音色の方へ旅立ちますと、西の方から、子供の鶴を三羽もつれた夫婦の鶴にあいました。
「おやまア、随分久しぶりですね。どうしたンですか‥‥。」
  お嫁さんの鶴がたずねますと、「ええひどいめにあいましたよ。どこへ行ってもいいことはなく、とうとう、私の子供はふたりとも病気で死んでしまいました。どこか、いいところはないかと思って、方々さまよっているところへ、何ともいえないきれいな笛の音がするので、きっと、あの笛の鳴る方にはいいことがあるにちがいないと思って、やって来たのですよ。」 と申しました。
「まア、そんなに笛の音が遠くまできこえるのでしょうか。あれは、足の悪いうちの主人が吹いているのですよ。」 お嫁さんの鶴の案内で飛んでゆきますと、自分たちのみすてた村だったのでびっくりしました。お嫁さんの鶴は、笛の音色を長いあいだきいていましたので、心のなかがひろびろしていて、どんなに自分たちが困っていても、ほかのものにほどこしをするのは気持のいいものにおもうようになっていました。
  さっそく、さっきとってきた魚を夕食に出して、旅づかれのした、おなかのすいている鶴たちに食べさせてやりました。
 足の悪い鶴も、お嫁さん鶴も、ほんの少したべたきりで、 「遠慮しないでおあがりなさい。たくさん食べて元気を出して行って下さい。」と、しきりにすすめましたので、鶴の親子は涙ぐんでしまいました。
たったこの間までは、みんなたべものをかくしあって、自分たちのことばかり考えていた鶴たちは、よるとさわるとたべもののけんかで、なかではおたがいにだましたり、きずつけあったりして、血なまぐさいことばかりで、鶴たちは、食べものの事といっしょに精神的な心配で、今日はたのしいという日は一日だってありませんでした。
 みんな、がやがやと群をなして、弱いものをおびやかしては、少しのたべものもとりあげて強いものがいばっているのです。
鶴の子供たちも、自然に気持がすさんで、おとなの悪いところばかりまねるようになって、きたない言葉づかいで、けんかばかりしていたのです。あんまりききんがつづいたので、みんな村をすてて行ってしまいましたけれど、いまはかえって、以前より平和になり、七羽の鶴は、どんなことがあっても、のぞみをすてないで、ここで元気に働いて暮しましょうと話しあいました。
鶴のお嫁さんの案内で、魚のたくさんあるところをみつけましたので、七羽の鶴はしっそな気持で、いつもたのしい食事をすることが出来ました。
ある夜、あんまり美しいお月夜で、金色の光が、こうこうとあたりをてらしていますので、足の悪い鶴は、また笛を吹きました。 
三羽の子供の鶴はお月様へむかって、歌をうたいたくなりました。
「きれいなきれいなお月さまア。」小さい鶴が歌いました。すると中の兄さんの鶴が、「生れた村がいちばんいい。」と歌いました。上の兄さんは、「きもちのいい夜だね。何を考えてもたのしいね。」と歌いました。
子供鶴のお母さんはのんびりとして、 「ほんとに、わたしたちはしあわせになったのね。お前たちががつがつしなくなっただけでもかえって来てよかった。乙さんも甲さんもみんなかえって来てくれるとにぎやかになっていいのにね。」と申しました。
鶴のお父さんは、一ぷくたばこを吸いながら、足の悪い鶴の笛の音にききほれていました。笛の音色はピヨロピヨロと涼し気な音色をたてています。

「あら、何だか、にぎやかな羽音がしますよ、誰かかえって来たのでしょうか。」
やがて、金色の空から、一羽二羽、三羽四羽、村をすてていった鶴たちが笛の音色にさそわれてもどって来ました。
「誰もいばらないで、みんなでわけあって食べあう気持ならばかえっていらっしやい。」
足の悪い鶴が申しました。 かえって来た鶴たちはよろこんで涙を流しました。
それからは、みんなで働きに行って、みんな仲よくわけあって食べました。――にぎやかな美しい鶴の国はいまもどこかにあるのでしょうか‥‥。


 きれいなこころがいつもいい、
 まずしくてもこころはゆたか、
 みんなでわけあって、

 みんなで働いて、
 いつもきれいなこころで、
 みんな愛しあってゆきましょう。
鶴の笛は、いつもそういってピヨロピヨロとやさしくなっていたのです。

鶴に関する民話を募集しています。あなたが知っている鶴に関する民話を教えてください。