013 不思議な猫の声

結婚式場で働いていたときのこと。式がひと通り終わると、社員は事務所に集まってくる。今日の報告書を書き、明日の式の予定を確認し、パートの社員は今日の給料をもらいにくる。

パートの女性がどやどやと入ってきたとき、私は机について書類を書いていた、すると「にゃあ」と猫の鳴き声がした。あれ、みんなにまぎれて猫が入ってきたかなと思う。となりの先輩が「おいおい、だれかあ、猫を連れてきたのは」と言う。みんなが振り向いて「誰も猫なんか連れて来やせんよ」「今、そこで聞こえたよ、なあ」とわたしのほうを向いたので、わたしも「聞こえましたよ」と応える。どうやら気がついたのは二人だけらしい。

遅れてきたパートさんたちが数名入ってきた。事務所に来るには廊下がひとつ、猫が今出て行ったなら彼らが見ているはずと、先輩が聞いたが、誰も見ていない。中途半端に話が断ち切れた。

電話が鳴る、誰かが話している。そのとき同期のA社員が事務所に入ってきた。電話に出た社員が彼に声をかける。 「A君、お母さんから電話でね、飼ってた猫が今死んだって。かわいがっていたから伝えてくれって」 わたしととなりの先輩は思わず目を合わせた。

霊感のない私のたったひとつの怪奇体験。


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