011 母が見た飛行眼鏡
母は戦争中、岩国の工場で働いていた。警報が鳴ると、扱っていた機械を止めて、油まみれの手を洗ってから避難する。「ひとよりちょっとぐずじゃった」という母は、もうひとりの仲間と遅れて防空壕へ走った。
目の先には、先に避難していく生徒たちの集団が見えていた。その時、うしろからぶーんという大きな音がした。振り返ると、飛行機が迫ってくる。飛行帽に飛行眼鏡がはっきりと見えたという。話す時母はいつも両手で輪を作って目に当ててみせる。
こういうときの対処は学校で教えられていた。習った通り、親指で耳を、残りの指で目を、左右それぞれ押さえて、パタッと芝生の上に伏した。音が止んだので、過ぎ去ったと思い、起きだして無我夢中に防空壕まで走る。二人とも足が地につかず、走っているやらころんでいるやら、どうたどり着いたか今でもよく覚えていない。
「ころぶように走ったとはあのこと」という。
家族では、日本人の女の子を見かけたものだから、からかったのだろうということになっている。あのころ、20歳かそこらのパイロットであれば、現在80歳くらい。彼はあの時のことを、孫に自慢げに話しているのだろうか。
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