010 レコードプレーヤーの思い出
寝転がっていると、母が「ただいま」と声をかけて、重そうに両手に荷物を抱えながら、よっこらしょとぬれ縁の板に足をかけるところを覚えている。荷物のひとつはポータブルのレコードプレーヤーであった。
プラスチック製で、旅行鞄の様に二つに開くと、片方に2つのスピーカーが並んでいてステレオになってる。「ウルトラセブン」と「ジャングル大帝」のソノシートと一緒に、私のために買って来てくれたのであった。母は嬉しそうな顔をしていた。
私はその2枚のソノシートの歌と物語を覚える程聞いた。後には「ドナウ川のさざなみ」のレコードも買ってもらって熱心に聞いた。嬉しかったに違いない。漫画の主題歌からはじまって、セミクラシックと呼ばれる音楽も、行進曲集も、ベンチャーズも、ビートルズもそのプレーヤーで聞いた。でも新しいコンポーネントステレオを買ってからはほとんど使うことはなかった。
古いものを処分するために整理していた時、ひさびさに出会ったが、あのときと同じ顔をしていた。33、45、75回転の切り替えスイッチがついていて時代をうかがわせる。もう30年以上前のことだ。針はない。あってももう鑑賞にたえる音は出ないだろう。
今の歳になって、自分のために母がいっぱいの愛情をそそいでくれていたのだということをこんなことで知る。初めてレコードプレーヤーを見た時、どんな顔をしていたか覚えていないが、母のためにも思いっきり喜んであげていれば良いがと思う。
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