あの娘の存在はかなり前から知っていた

その時は、そこまで欲しいとは思わなかったが






あの映像を見て

絶対欲しいと思った











黒曜石を思わせる

闇夜のような漆黒の瞳


流れるような漆黒の髪


透き通るような透明な肌


爛々と燃ゆる炎




自分と同じ炎術士



すべて、私のものだ
































『 紅炎の末裔 』























此処はモデルルームを思わせるほどの豪華なマンション。
床は大理石のタイルでびっしり詰めてあり
照明は煌びやかなシャンデリアだ。
此処が が住んでいるところだ。
豪邸に住んでいる柳以外の四人は口をあんぐり開けっ放しだった。


が住んでいる7階の718号室の玄関の前で烈火たち4人がドアを囲んでいた。
玄関ではパジャマ服と其の上にちゃんちゃんこを羽織っていて
ゴホゴホと咳する を柳がすごく心配して見ていた。


「今日、学校来れそうもないの?」

「ゴホっ ゴホっ・・・
ごめん、風邪引いちゃったみたいで。」

ゴホゴホと は咳き込んだ。
顔も真っ赤に熱をおび
声は鼻声で度重なる咳の御蔭で声が少し涸れていた。

苦しそうに咳き込む を烈火の大きくて優しい手が
背中をさすった。



「お前大丈夫かよ。
無理して出なくても母ちゃんに出てもらえばいいのによ。」

「ゴホっ ゴホっ・・・
家には私一人だけなの。」

たしかに、そぅではないと
インターホンを鳴らして病人の がでるというのはあるわけがない。



のおばちゃん朝早く仕事とか出てんの?」

「・・・まぁ、うん、そんなもんだね。
でも、いつもそぅだからゲホっ ゴホっ」

風子の質問に は、頷いた。
は笑顔に云うが内容は悲しいもの。


「じゃぁ、・・・一人なの?」

顔の表情を曇らせた柳は、小さく呟いた。



朝起きても親はいない

いってらっしゃいと自分を見送る親はいない

学校から帰っても迎える親はいない

テストで100点取っても自分を褒めてくれる親はいない

風邪を引いても傍には親はいない


今は烈火、風子、土門、 などの友人ができてそこまで淋しくないが

当時は淋しくて淋しくてたまらなかった

大きくても空虚な家

ベッドで身体を震わせ泣いた日が沢山あった

それでも優しい言葉を浴びることはなく

お手伝いさんの原田さんからは

五月蝿いと罵られるだけだった



淋シイナ

淋シイヨ

淋シイ






それを も味わっているなんて・・・
柳は考えただけで胸が張り裂けそうな想いだった。

柳の想いを察した は安心させるように笑った。


「ありがとね、柳ちゃん。
私は大丈夫だよ。
心配してくれて、ありがとね。すっごくすっごく嬉しい。」

淋しい想いより柳が自分を想ってくれる優しさに
は嬉しくてたまらなかった。
柳は の笑顔に安心したかのように微笑んだ。


「炎出したら、風邪引く体質なの。
だから、夕方には治ってるよ。
ゲホっ ゴホっ」

「でも、あんま無理すんなよ。」

再度咳き込む に烈火はまた背中をさすった。


「花菱は馬鹿だから風邪は引かねぇかんな。」

「んだと、この腐乱犬。」

「お前もな、腐乱犬。」

烈火と土門のやり取りに風子が加わった。
しかも、烈火寄りだ。
コレには、土門もショックだ。

それを見ていた柳と がどっと笑った。


「あは、ははははは!!
ゴホっ ゴホっ ゲホっ ゲホっ!!」

ちゃん!!」

途中で が苦しそうに激しく咳き込んだ。
柳がすかさず の身体を支え、背中をさすった。


「ごめん、咽せちゃった。
ありがとね、柳ちゃん。」

今もなお自分の身体を優しくさすってくれている
柳に は心から感謝した。


「じゃぁ、また夕方来るからよ。
絶対安静してろよ。」

「うん。」

「栄養があるものはちゃんと食べてね。
暖かくしてね。
あ、風邪にはネギがいいんだよ!!
たしか、近くのスーパーで今日安売りしてたから!」

「うん。」

「はい、これ風子ちゃんの携帯番号。
何かあったらすぐ呼べよ。」

「うん。」

「オメェは、一人じゃねぇぞ。
それ忘れんなよ。」

「うん。」

は、四人の背中を見えなくなるまで見送った。





バタン





「皆、本当に優しいなぁ・・・。」

先ほどから烈火たちに貰った言葉を思い出しながら
は幸せそうに笑みを浮かべた。



人に愛されるって

すっごく

すっごく

すっごく


嬉しいな

暖かいな


幸せだな







早く元気になってね!!






は烈火たちの笑顔を思い浮かべ
また笑みを浮かべた。
昔では、早く学校に行きたいなんて絶対思わなかった。

早く治して皆に逢いたい



「ゴホっ ゴホっ 早く、治さなきゃ。」







ピンポーン



が寝室へ足を進めようとしたときにインターホンが部屋に響いた。
無論出ないわけにはいかない。
重い身体を鞭打って玄関のドアのノブを捻った。


「ゴホっ ゴホっ はーい。

どなたですか?」




ガチャ


ドアを開いた瞬間、 の顔つきが鋭くなった。
突然の訪問者は雷覇だった。


「あはようございます。
さん。」

いつものにこやかな笑顔で に挨拶した。
それでも、 の表情は和らぐことはなかった。


「・・・一体何の用ですか?
また【例の件】ですか?」

「流石 さんですね!
何で分かったんですか?」

怒気が篭った鋭い声を上げても雷覇は相変わらずにこやかだ。
このマイペースさは、流石の も何時の間にか
毒抜きさせられてしまう。


「いつもそれで来ているから流石に分かりますよ。」

「うーん、たしかにそぅですねぇ。」

「たしかにってそ ゴホっ ゲホっ ゲホっ!!!」

言葉が途切れた瞬間 が再度咳き込んだ。
しかも今度のは、先ほど柳たちがいたときとは比べ物にならない程酷かった。

幾度となく身体の中より吐き出される咳によって
眩暈と不快が脳の痛覚に行き渡った。
はその場に倒れたが、間一髪雷覇がしっかりと熱の篭った身体を受け取った。


「大丈夫ですか!!?」

「ゲホっ!!ゲホっ!!ゲホっ!!
大、丈夫・・・でゲホっ ゴホっ!!」

雷覇はゆっくり の背中をさすった。
咳の間に零れる弱弱しい掠れた声。
誰が見ても大丈夫な筈はない。
それでも は大丈夫だと頑固に云い張る。
雷覇は何か思い浮かんだような顔つきをした。


「すみません、 さん。」

「え?・・・ゴホっ えぇ!!?」


雷覇は を抱え、寝室まで連れていった。
途中で の抵抗する声が訊こえたが無視した。


の寝室(部屋)は、女の子らしい可愛さはなく
必要最小限しかないシンプルな部屋だった。
そんなコトを考えている暇はない、 をベッドの上に横たわらせた。


「酷い熱・・・。」

雷覇の綺麗な眉毛が歪んだ。
ふと触った頬は、燃えるように熱かった。


「大丈夫ですよ。
この熱は、炎を使ったときに現れる症状なんです。
じきに下がります。」

はぁっと は熱い息を吐いた。


「すみません。
あのようなところで立ち往生させてしまって。」

「そんなことありませんよ。」

自分の身を案じてくれる雷覇に はニコっと笑いかけた。
友達ではないが、やはり自分の身を心配してくれる
というのは何故かしら嬉しいものだ。



「雷覇さん。」

「はい、何でしょう。」

「貴方のご主人に伝えてください。
『いくら来られても、私は“麗”に入隊するつもりは
微塵にもありません。』と。」

実は、引っ越す前から は雷覇を通して
“麗”に入らないかとスカウトされていたのだ。
最初尋ねてこられたときは流石にビックリした。
親と自分しか知らないこの能力を他人が知っているとは。



ずっと忌み嫌っているこの能力

この能力を受け入れてくれるのは正直本当に嬉しかった。

しかし、訊けばこの“麗”という部隊は戦いの隊だという。

この能力でまた人が傷つく。



は、それが厭だった。

例え、この能力を受け入れてくれても・・・


入隊は無論、ずっと断り続けている。




「・・・そうですか。
分かりました、紅麗様に伝えておきます。
では、早くよくなってくださいね。」

そういうと雷覇は後ろを振り向いた。
部屋から出る前に が腹から
今出せる最大の声を上げた。


「・・・運んで、くださって
ありがとうございました。」



小さいが凛とした通る綺麗な声と
柔らかな笑顔。
雷覇は目を見開いて を見た。

「・・・ さん。」

「はい?」


「だいぶ表情が柔らかくなりましたね。」

「そぅですか?
私は、あまり実感がないのですが。」

「そうですよ。
やっぱり笑うと可愛いですね。」

「なっ・・・!!?(///)」

雷覇の「可愛い」という単語で の頬は更に朱に染まった。
雷覇は手を挙げてその場から立ち去った。



バタン








  さんですね。』

『そぅですけど、何か?』

『そんな恐い顔しないでくださいよ。
こんなに可愛いのに。』

『悪かったですね。
元々恐い顔なんですよ。
ほっといてください。』

『そんなにつっぱらないでくださいよー。
哀しいじゃないですか。』

『・・・ほっといてください。』




彼女の第一印象は




何も見ようとはせず

何も訊こうとはせず

自分を否定し

周囲も否定し

殻に閉じこもっている少女


私に向ける虚ろな黒い瞳

私に向ける自分の身を守るような刃のような脅えた声






『ありがとうございました』

それがあのように笑うようになった。
そして周囲を他人を受け入れるようになった。






「(やっぱり笑うと可愛いですね。)」

の初めての笑顔を思い出し口を手で抑えて雷覇はクスクスと笑った。



「何かおかしいコトがあったのか、雷覇。」

黒い車の窓から帰ってきた雷覇に紅麗が声をかけた。
いつものように仮面は被らず、
サングラスをかけ、火傷の部分は隠していた。


「おかしいというより、ほほえましいコトがあったんです。」

ニコーっと雷覇が笑顔で云った。


「・・・ところで、炎術士の娘はどうした?」

さんの答えは一緒でしたよ。

『いくら来られても、私は“麗”に入隊するつもりは
微塵にもありません。』だそうです。
またフラれちゃいましたね、紅麗様。」

「そぅか。」

たった一言。
あそこまで執着していたのを雷覇はよく知っていたので紅麗から
意外な言葉が返ってきたのが幻聴に訊こえた。


「・・・紅麗様、まさか諦めるおつもりで?」

「まさか、私がそうきっぱり手を離すと思うか?」

紅麗がニィィっと唇の端を吊り上げた。
サングラス越しでも、紅麗の燃ゆる瞳を雷覇はちゃんと確実に感じていた。

雷覇はニッコリと笑い愚問と云わんばかりに云った。


「いいえ。」

「もう既に手は打っている。
もぅすぐ・・・もぅすぐ手に入る・・・

ククククク・・・あはははははははははははは!!!!!」











○コメント○

はわわわわ、ようやく紅麗さんが出てきました!
しかも最後だけ(滝汗)
紅で燃やされそうな勢いです(滝汗)
雷覇くんも意外な人気があったので
サブで出しました。
しかも、少しラブらせたりしたり(キャっ/!!?