怖い


足が震える

身体が震える

胸が痛い

足先が軽く痺れる

背中が冷たい

今すぐにでも、此処から逃げ出したい


でも、もぅ、逃げない

いや、もぅ……逃げたくない


































紅 炎 の 末 裔






















「その炎」


「ちょっと下げていただけませんか?」


振り返るとそこには の炎の『煉』が怒りに満ちた禍々しい炎を上げていた。
其の炎は、紅麗が に少しでも触れさえすれば紅麗を取り囲み
骨さえ残らず燃やしてくれようか、と云わんばかりの程だった。

『煉』の怒りは最もだ。
主人を脅かす男、其の身を細胞を一つ残らず
今すぐにでも燃え殺したい。





「『煉』、大丈夫。大丈夫だから、ね。」

は『煉』に大丈夫だということを訴えた。
『煉』という鳥の形をした炎は、主人 の命を利くが、
命に反して を害を与える者は幾人も焼き殺している。
母を殺した男が其の事実の一つである。

例え、害する者であっても…………

もぅ、人が死ぬところは見たくなかった。



『煉』は一度紅麗を見て、そしてくるくると円を描きすぅっと
空気に吸い込まれるようなかんじに消えていった。

自分は『煉』が出てくることさえ気づかず紅麗を恐れていたのか?
今まで、雷覇などの部下にしか面識がないのに、今日、初めて見る紅麗に。
緊張している?否、そんな感情ではない。



「あれが」



只…本当に、…………



「貴女の炎、ですか。」


怖いんだ。

紅麗というこの男が。




「…えぇ。」












― ― ― ― ― ― ― ―














「話しがあるなら、どうしてあんな手荒な真似をしたんですか?」

「命令した部下が、礼儀を知らない奴でね、人選を誤りました。
御無礼を御詫びします。」

そう云って紅麗は頭を下げた。
声からして反省は伺えるが、仮面の下。
顔は何を物語っているか、計り知れなかった。

此処で己の恐怖が知れたら、相手、紅麗にとっては優勢だろう。
はあくまでもいつも通り、自然体を演じるように
自分に云い聞かせた。



「私は怪我をしていないから別にいいです、けど…」

「?」

「柳ちゃんと先生の奥さんは…っ……、無事なんですか…っっ!!!」

あくまでも最悪な結末を考えないようにしていたが、
大好きな2人だ。思い浮かべるだけで心が温かくなる、そして
引き千切れる程痛くなる。

どうか、どうか……

2人は無事でありますように

2人が無傷で何事もありませんように

どうか、2人が………………




『生きて』、いますように






「えぇ、唯一怪我を負っている立迫婦人は地元の病院で一命を取り留めたみたいですし、
佐古下 柳さんは気を失っているのでコチラの館に運びました。」





願いは、砕けた。

祈りは、潰された。






「なっ……」


「今、別室で休憩されています。」


「ちょっと………」


「安心してください、怪我はおろか擦り傷一つしてません。」


「柳ちゃんは、私が逃げないための『人質』なんですか?」







「…」










「はっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!!!」

紅麗は、笑った。
心の底から笑う、正のイメージではなく
全くもって反対の嘲笑うかのような、負のイメージ。


「何を云い出すかと思えば、はは。
さんは面白い方だ。」


嗚呼、神様

弱虫で無力で臆病で傲慢な

私に希望をください。




「可笑しなコトを仰る。
貴女を逃がさないための『人質』だなんて…。」


怖いです。
もっと云えば、此処から逃げ出したいです。

でも、逃げてはならないんです。

この男は、奥さんを傷つけ病院送りにし、柳ちゃんを閉じ込めているのです。



嗚呼、神様

弱虫で無力で臆病で傲慢な



私に………


この男に歯向かうコトができる

一瞬でもいい。



『勇気』をください。




「誤魔化さないで!!!
私に用なら私だけを連れて行けばいい!!!
柳ちゃんと奥さんを巻き込まないで………っっ!!
あの人たちは、何も関係ないっっ!!!
傷つけないで、苦しめないでっっ!!!!」

負けたくない。
例え、こんな小さな力だとしても。
こんな男に屈してたまるものか。
こんな男に負けてたまるか。



「アンタに傷つけられる、苦しめられる理由なんてない!!!」

燃えるような強気を帯びた黒い瞳は、紅麗を睨んだ。
馬鹿にされてもいい。
嘲笑われてもいい。
云いたいことはいったのだ。

後悔はない。



「…率直に云います。麗入隊の話しです。
お金、生活、総て一生の保障を約束します。」

「そのためだけに、あんな酷いことをっっ………!!!」

「我々には、貴女が必要なのです。」

「……何度も申しますが、入隊する気は微塵もありません。
この力は呪われています。
人を傷つけ、人を殺す、魔性の類です。
私は、そんな人を苦しめるようなコトはしたくないんです……っっ!!!」



そぅ、母を殺したあの男を焼き殺したときもそうだった。

の意思とは反対に『煉』は男の身体を幾にも引き千切り燃やし殺した。

あのときの虚無感といったら…………


『オジチャンドウシテウゴカナイノ?
ドウシテオキナイノ?』


雨が上がったあの空の青さといったら……

『ネェ、オジチャン。
オカオドコニアルノ?
オテテハドコニアルノ?
アシはドコニアルノ?

ネェ、オジチャン。


 
ド ウ シ テ 『真っ黒』 ナ ノ ? 」






「やれやれ、中々強情な方だ。」

「強情でも、何を云われてもいいです。」

さん」


今までより更に低音声。
そして、上から押し付けられるような独裁者独特の、威圧感。



「貴女がいる限り、貴女の大好きな柳さんは傷つきます。」

「!!?」

「云ったでしょう?我々は貴女が必要だと。
それに、無理なら力ずくという手もありますから。」

「だからってそんな……っ!!?」

突然の出来事であった。
紅麗の大きくて冷たい両手が の頬に触れ、紅麗との距離を縮められた。

恐怖で泣きそうになった。
恐怖しか、湧かなかった。



、お前の所為で佐古下 柳は不幸になる。」




『お前みたいなガキがいるせいで私は不幸なんだ!!!

お前なんて、いらないんだよ!!!!

この疫病神!!!!』





誰か、助けて。
誰か、否定して。
誰か、抱きしめて。

誰か、私を………


嫌いじゃないと、傍にいてほしいと…

愛してください。




紅麗は動かなくなった をそっと抱きしめた。
温かさなんて、これっぽっちもなかった。

またふりだしだ。
私は、いらないんだ。
私の存在は、人を不幸にするんだ。
私は、不必要なつまらない人間なんだ。

私は、生きてはならない存在なんだ。
暗闇を抱く者は、光にはなれない定めなのだ。




再び黒い瞳から涙が流れた。




さん、よく考えてください。
貴女にとって一番何がよい選択かということを。」








バタン








「紅麗様」

「雷覇か、どうした?」

雷覇が紅麗個人の屋敷に赴くのは珍しいことではない。
しかし、今は他の命を出してしばし顔が見えない筈。
いや、雷覇のことだ。
見た感じは、ボケーとして間抜けを演じているが
知るものだけ知る奇才をもつ男。知るものは少ない。
紅麗が出した命など当に片付けて、報告に来たのであろう。



「森様から御電話が入ってまして、たまたまコチラに
用があって、訪問していたので貴方を探していたんですよ。」

「…そうか。で、『例』の件は?」

「上々です。後で詳しくお知らせしますね。」

「分かった。」

「やはり、この男はやってくれる。」
表面上では、そっけなく云う紅麗だが、
雷覇に心の中でそっと褒め感謝した。
その紅麗の不器用な優しさを知ってだろうか
ニコリと雷覇は笑った。



「紅麗様、嬉しそうですね。
スカウトOK頂いちゃったんですか?」

「いや、相変わらず断られたよ。」

「あちゃー、またフラれちゃいましたか。」

「しかも『入隊する気は微塵もありません。』だとさ。」

「嫌われちゃってますねー。
困っちゃいましたね、どうするつもりなんですか?」


湧き上がる欲望は止められない。
人間は知の動物とは云え、動物だ。

もぅすぐ…
もぅすぐ…


手に入る。

これが、嬉しいといわず何と言葉にすればいいのだ?

嫌われている?

しかしどうだろうか、この自明に似た予兆は。

お前が私の傍にいる光景が目を閉じても浮かぶではないか。


「安心しろ。
アイツは絶対私の元へ来る、必ず。」







コメント
さて、これから話しがどんどん大きく回ります。
一部終了まで後もぅちょっとです。
あーんなことや、こーんなことも起こっちゃいます(*エロくありません)
嗚呼、喋りたい。書きたい。
そーしーてー、紅麗さん怖い(ガタガガタガタガタ)
まだヒロインの前では猫被ってましたが
最後らへんは羊を被っ狼が見えましたね(笑)
さて、これからの展開は密かに注目です。