暖かい日の光が差し込んでくる。
そんな昼下がり。
待っているわけじゃない。
でも、どこか期待してしまうんだ。
陽光
「やあ、士度君。」
聞き覚えのある、高いとも低いとも言えない妙音。
士度はベンチに座って閉じていた目を開けて、その方向へと視線を向ける。
視界に入ってきたのは1人の女性。
今日は寒いわけでもないのに、黒いロングコートに黒手袋。
ブーツも黒で極めつけは長い黒髪という、黒ずくめな姿がなんとも印象的な女性だった。
士度は、彼女を知っている。
「・・・またお前か。」
「相変わらず愛想が無いな、君は。」
落ち着いた口調で笑ってみせる。
見たかんじでは、士度と同年代か、それより少し下か。
若い外見のわりには何かを悟ったような目をしている。
士度とは仕事柄の関係で何度か一緒に仕事をしたことがあった。
ここは昼下がりの公園。
この街では1番緑が残っている場所だった。
士度は仕事が無い日はよくここに足を運んでいる。
「よく飽きねえな。」
「私もこの公園が好きなのだよ。公園は名の通り公の場。
私にだって、来る権利ぐらいはあるだろう?」
「別に来るなとは言ってねえだろ。そもそも何しに来たんだ?」
「君は理由が無ければ外へは出ないのかい?」
持ち前の美しい笑顔で彼女は笑う。
彼女の言い分に士度は特に反応も返さずに、自分の足元に集まってきた
鳩の群れに向けて餌をばら撒いた。
女性はその様子を微笑ましそうに見つめているだけ。
何か口を挟ませる様子も無いし、ただ立っている。
それが気になったのか、士度は自分から彼女へ声をかけた。
「立ってねえで座ったらどうだ?」
「それは有り難い。」
士度は自分が座っていたベンチから腰を浮かせて1人分のスペースを空ける。
彼女もそれに笑顔で応じた。
2人の間に何か会話があるわけでもない。
ただ、地面に散らばった餌を突付く鳩を見つめるだけ。
時折混ざっている白い鳩を見つけると、女性は嬉しそうに呟いた。
『生きた平和の象徴だな。』
士度は黙って頷くだけ。
やがて餌がなくなると鳩は飛び去っていく。
その様子を見上げて眺めると、青く澄んだ空が一面に広がっていた。
2人が座るベンチは1本の木の下にあった。
木の葉の隙間からこぼれる日の光は、ポカポカと暖かい。
その丁度良いぐらいの温度の光を浴びて、士度が目を閉じかけた時だった。
「・・・ここは、暖かいね。」
「あ?」
「暖かすぎて、まるで俗世間から切り離された空間のようだよ。」
静かに降り注ぐ陽光に目を閉じる。
その表情は穏やかで、今にも眠ってしまいそうだった。
「ああ・・・そうだな。」
士度も彼女の意見に同意する。
木の葉が揺れる音がした。
サラサラと、川の水が流れていくような音。
澄み渡ったその音は、心の奥の何かを洗い流してくれるようだった。
「・・・アメリカに、行くことになったんだ。」
「アメリカ・・・・?」
彼女の言葉はいきなりだった。
元から唐突なことを口にする人柄ではあったが、いつまでも慣れない。
そして今、彼女はアメリカへ渡ることを告げた。
「仕事でね、アメリカに渡らなくちゃいけないんだ。
それも結構な大仕事でね、しばらくは向こうに滞在すると思う。」
「・・・そうか。」
「あっはっは、別れの言葉も無しかい?士度君。」
「言ってほしいなら言ってやるが?」
「いや、結構だよ。まるで私が負け戦に行くようじゃないか。」
すると彼女はベンチから立ち上がると、士度へと手を差し伸べた。
いきなりの行動に、士度はしばし呆然とその手を見詰める。
「鳩にやっていた餌、余っていたら分けてもらえないか?」
「ああ・・・ほらよ。」
士度は余った餌が入っている小さな袋を手渡した。
彼女はそれを受け取ると、その粒状の餌を片手に握れるくらいの量でばら撒く。
すると、先程飛び去った鳩達がもう一度木の上から戻って来る。
そして地面に撒かれた餌を啄ばみ始めた。
「でも今度の仕事はね、負け戦になるかもしれないんだ。」
「・・・・。」
「依頼人にも言われたからあまり詳しくは言えないけれど、
運び屋として、危険なものを運ばなくてはならないらしい・・・。」
鳩を見つめる彼女の表情は見えない。
彼女の言う『危険なもの』。
一般人からすれば気になる言葉かもしれないが、士度達のような
裏稼業の人間にとっては大体の想像がつく。
武器だろうか、薬だろうか。
彼女のような人間が『危険』だと言うのだ。
本来この世にあってはならない物なのだろう。
「まあ、こういう仕事柄だしね。いつかは来るだろうと覚悟はしていたよ。
対抗勢力の方も、大きい組織らしいけど。」
こんな時に笑顔でいられる彼女は凄いとも思える。
だが、同時に哀れにも思えてきた。
何故なのかは、分からないけれど・・・。
「・・・こうしていると、嫌になってくるね。
こんなにも美しく温かい場所があるというのに、それを崩していくものを
私は目的の場所まで運ばなくてはならないんだ・・・。」
空を見つめながら彼女は呟いた。
鳩達はもう足元にはいない。
「仕事が終わったら、また来るよ。」
そう言い残して彼女は去ろうとする。
士度に背を向けて、公園の出口へと歩きだした。
その時、今まで話すことのなかった士度が口を開く。
「おい。」
「・・・?」
士度に呼び止められ、彼女がもう一度振り返る。
その表情に込められた感情は『疑問』。
呼び止められるとは思っていなかったのだろう。
士度はベンチから立ち上がらないものの、彼女と視線を合わせて告げた。
「死ぬなよ、" "さんよ。」
士度の思わぬ激励の言葉に彼女は目を丸くする。
だが、その表情も次の瞬間には穏やかな笑顔へと変わっていた。
そして、静かに口を開く。
「我が侭を言ってしまうが、今ぐらいは本名で呼んでくれないかい?
時折、自分の本当の名を忘れてしまいそうになるんだよ。」
彼女の言葉に、思わず笑みが浮かんだ。
士度はもう一度、今度は彼女のもう1つの名を呼んだ。
「戻って来たらまたここで話そうぜ、 。」
「ああ、約束だ。」
暖かい陽光が差す昼下がり。
そんな約束が交わされた。
おわり
+++++
あとがき
相互リンクをして下さった雨風慎粋様へ捧げます。
士度さんが激しく偽者な上、主人公の名前が一度しか呼ばれない・・・。
なんてブツを書いてしまったんだ。(自己嫌悪)
主人公は無事に帰ってきたのでしょうか。
それは読者様のご想像にお任せします。
何はともあれ、雨風様。
遅れてしまって本当に申し訳ありません。
相互リンク、どうもありがとうございました!
これからもどうぞよろしくお願いします。(ぺこり)
神条焔&奥村四季
○コメント○
こんにちわ、焔さん四季さん!
素敵な相互記念ありがとうございます!!!!
ヒロインがこれまたカッコよくて素敵ですvvvv
士度サンが最初は通り名?を呼ぶところに胸キュンです。
照れ屋な彼に萌えました、照れ屋万歳(キャーキャー)
さり気ない彼の優しさにも思わずキャっvでした(意味不明)
素敵な相互記念ドリームありがとうございました!!
こちらこそこれからもよろしくお願いします!