この御時世
いつ死ぬか分からないもんだから
遺書というものを書いてみた
遺書=最初で最後の●●
春は曙(アケボノ)
鶯(ウグイス)少々
窓からは、桜の五部咲き。
土方の小姓の は、
机に座り、墨を擦り、白い半紙に墨をたっぷり含んだ筆を滑らす。
と同時に、滑らす文字を間抜けな声で読み上げた。
「えぇーっと・・・。
“遺書”っと・・・。」
風流漂うこの日に和歌かと思いきや、 は全く違うものを詠んだ。
半紙の左端には、太々しく根付いた“遺書”が書いてあった。
あまり字は上手いとは云えないが、その字のできに満足した
は、筆を更に滑らした。
「えー、私こと はー。っと。」
「新撰組に入りましてー、
鬼副長にコキ使われてー、結婚もできないままー、
独り身のー、生涯ーでーしたー。っと。」
終わった、えらく短かいな、オイ。
題名(?)を入れて、たった三行。
は、しかめっ面をし白紙に近い遺書を手にとって読み直した。
更に読むと、 のしかめっ面は更に増した。
「あー、これじゃあ、私って只の苦労人じゃない・・・。
鬼副長のとこまではイイんだけどねぇー。」
そう云って は、鬼副長のところを指した。
たしかに、新撰組に入ってから
は鬼副長こと土方に雑用から身の回りの小さなことまで休む暇なく
せっせと働かされている。
宴のときだって(故意に)仕事も入れる。
せっかくの美味い食事が・・・
せっかくの楽しい宴会が・・・
メラメラと怒りの炎が から放出している。
「鬼副長のブワァーカ!!!」
「誰が鬼副長で馬鹿だ?あ?」
「誰って、他に誰がいるっていうのよー。
土方サンに決まっ
気づいたがすでに遅し。
身体を震わせて恐る恐る振り返ると、
の土方が腕を組んで眉間に皺を寄せ、 を見下ろしていた。
あまりの恐怖で、 は腰を抜かした。
「ほほぉ・・・。」
「鬼っじゃなかったーーーーっ!!!
こ、こんにちわございます、土方サン!」
「こんにちわございますじゃねぇーだろうが。
いつになったらヒトの茶持ってくるんでぃ。」
「あ、そういえば。」
は、ポンと手のひらを叩いた。
ちょうど数分も経たない過去で、
土方に御茶を持ってくるように云われたのだ。
しかし、どういうワケか、気づけば仕事をすっぽかして此処にいる。
無意識というものは恐ろしい。
あははと頭を掻く を見て、土方は「しょうがねぇな。」っと
云わんばかりに溜息をついた。
「こんなコトだろうと思ったぜ。
じゃあ、すぐ持ってこいよ。」
「・・・そんぐらい自分で持って来りゃイイじゃないですか。」
背を向けて立ち去ろうとする土方が の
この一言で振り返った。
「てめぇ、いつの間に俺に意見できるほど偉くなったんだ。」
「だって、土方サンいっっっっつも
私が持ってくる御茶にケチつけるじゃないですか!
だったら自分で淹れればイイじゃないですか!」
そうなのだ。
散々、 に御茶を頼むのだが、土方は不味いの連発。
皆が太鼓判を押した自信作でも、不味いの一言。
これには、誰だってだって怒る。
「不味いものを不味いって云って何が悪いんだよ。」
「キィー!!!
何て乙女心を分かってない人だこと!!
そんなんだったら、浪漫詩集者豊玉の名前が泣きますよ!!」
「てめっ、何でその名前知ってやがんだ!!!」
豊玉という名前を の口から出て土方は、口をあんぐり開けた。
まさか、 にまで知られているとは。
土方は、混乱を隠せなかった。
その意外な反応に は笑った。
「ふふーん、私の情報網を舐めちゃいけませんよ。」
(総司か・・・。)
ビンゴです。
「兎に角、そんなんじゃあ、嫁に出ても追い出されるのが
オチじゃねぇーか!」
「イイですよ、追い出しても無理矢理入ってやりますから!」
「何でそういう結論になるんだよ。」
「私がそれで泣くような女に見えます?」
不毛な言い争いが無駄だと思った土方は、再び背を向けた。
っというか、更に云えば後で沖田がきっと加わり何かの弱点に付け込まれる。
只でさえ、豊玉という自分の詩集名は内密なのに。
「・・・分かったから、茶持って来い茶ぁ。
呑める茶をな。」
それでも、悪態をつく土方に が鶴の一声をあげた。
「・・・そんな意地悪云うんなら、伊藤サン呼んできますよ。」
「!!?」
コレには、流石の鬼副長でも大ダメージ。
っというか、一度もその伊藤の土方へのアッツイ視線や
土方への想いなど知らせる、または見せた(?)コトはなかった筈なのに。
はい、犯人は、複数です。
「ヲホホホホホ、『土方サンが逢いたがってましたよ。』と云えば
飛んでくるでしょうね。」
「・・・(ゲンナリ)」
それが想像できるから怖い。
土方は、身体中に鳥肌を立たせ髪を萎びさせた。
「ま、冗談ですけど。
面白いですけど、私もあの人好かんです。
裏で何やらやっているみたいなんで。」
「何か分かったのか?」
のこの一言で土方は、いつもの鬼副長への顔になった。
「・・・微妙ですね。
まだ尻尾つかんでませんし、あくまで噂なんで。」
「山崎クンと同じだな。」
同じ偵察の烝にも命じておいてやはり同じ答えが返ってきたのを覚えている。
尻尾をチラつかせているのだが、尻尾を完全に見せない。
土方は、チっと舌打ちをした。
「ま、焦ったらこっちが殺やれますからね。
じっくりやっていきます。」
「あぁ、そうしてくれ。」
「まかせてくださいよ。」
ニカっと は笑った。
この笑顔を見て、土方は自然と顔が緩んだ。
「そういえば、 。」
「御茶なら自分で淹れてくださいよ。
今、私は忙し
見ると土方の手には、先ほどまで書いていた遺書。
流石、新撰組(鬼)副長。
早さも副長である。(違っ)
「こりゃぁ、何だ?」
「・・・わ、私が書いた遺書ですが。」
「オマエ、今から死ぬつもりか?」
「いいえ、とんでもない。
流石の私だって死にたくないですよ。」
「じゃあ、何でんなもん書くんだ?」
「そりゃー、やっぱりこの御時世何があるか分かりませんから。
生きてるうちに遺書書いとこうかなって思ったんです。」
「で、何でそこで人の名前があんだ?
しかも、鬼副長たぁ、イイ度胸だな。」
乱れた髪から見えるこめかみに一本青筋が立っているのが
見えた は、背中に冷や汗をかいた。
「(や、殺られる・・・ヤバイ。)
まぁ、・・・試し書きでたまたま土方サンの名前が当たったんですよ。
うわー、嬉しいなー。」
「嬉しくねぇよ。」
「あはは・・・ですよね・・・。」
「で、この下のヤツぁ何だ?」
白紙に近い短い遺書の下に重なっていた
半紙を剥ぎ取り、土方は に見せた。
見た瞬間 の顔中に血液がものすごい早さで集まった。
私が死んだら
私を忘れてください。
そして、きっと新しい人に逢い、愛される筈です。
そうなったらその人を愛し、ずっとずっと幸せでいてください。
しまった。 は手に口を覆って思った。
しかも、自他が分かるほど顔は赤面している。
土方は、ニヤりと笑って視線を逸らしている を見た。
「この反応からすると恋文だな。」
「違いますよ!!」
「言い訳は見苦しいぞ。さぁ、吐いちまえ。
誰に書いたんだ?」
「だから、違いますって!!!!
もう、返してくださいよ!!!」
「嘘はよくないぞ、 。」
「土方サンだって、私に「今日は、重大な会議がある。」って嘘ついて
よく島原の女の人といかがわしいコトしてるじゃないですか。」
「・・・と、兎に角云うまで
返さねぇぞ。」
「あー、またそーやって話しをはぐらかすー。」
「何でそうなる?」
「総司に云っちゃいますよ。
土方サンは、そうやってまた子供をはぐらかすって。」
「そんなコト云うと、片っ端からコレ廻すぞ。」
「汚いですよ、ソレ!!!
職権乱用じゃないですか!!!!」
「テメェが云わねぇからだろうが。
オラ、切腹したくなかったら早く云いやがれ。」
切 腹
せ っ ぷ く
セ ッ プ ク
は、腹 き り! ! ! ?
「切腹って!!?
何でそんなコトで切腹になるんですか!!?」
「厭なら、さっさとしやがれ。」
そんなことで切腹になるなんて元も子もない。
これでは、本当に遺書を書いたとおりになる。
しかし、鬼副長。
此処で引き下がるワケはない。
「コノ鬼職権乱用クソ副長が!!!
サギですよ、サギ!!!」
「(ニヤニヤ)」
先ほどから不毛の言い争いの末に出した
副長命令の切腹に流石の も折れた。
そして、照れた顔つきでしぶしぶ口を開いた。
「・・・我儘で、人一倍不器用で、強くて、がんばりやさんで・・・
夢ばかり追い求めて、そのためなら
自分が悪者になってもかまわない、自己犠牲をする人で・・・
そして誰よりも優しくて、弱くて、すっごく儚い人・・・ですよ・・・。」
一言一言、ゆっくり確かめるように云った言葉。
その視界には、土方が映っている。
「分かって・・・もらえました、か?」
「 ・・・。」
初めて名前を呼ばれて、 は心臓の鼓動が更に
大きくなるのが分かった。
「そんな隊士こん中には、いねぇぞ。」
「・・・は?」
「ったく、どんなヤツかと思えば外の野朗かよ。
期待して損したぜ。」
「・・・。」
「俺としては、総司か山崎クンと睨んでいたんだがな。」
「・・・。」
「で、結局誰なんでぇ。」
「土方サンの・・・。」
「あ?」
「馬鹿ーーーーーーーーーーーー!!!!!」
春は曙(アケボノ)
鶯(ウグイス)少々
窓からは、桜の五部咲き。
屯所からは、鈍感恋仲の喚き声。
春は近い。
コメント
題名がかなり暗いイメージがあって
ダークかなぁっと思ったらすんません。
ほのぼの(?)メインで決めてみました。
いやぁ、やっぱりこういう日常もイイなぁっと思い(ヲホホ)
っというか、鈍感な土方サンが可愛い・・・vvv
あと、ヒロインをからかっている土方サン楽しそうですねぇー。
私もヒロインにかわりたい(え!!?