銀ちゃん、あたしね……

銀ちゃんに逢えて本当に幸せだったよ。

























アオイトリはもういない



























「…あはは、やっばいなぁ。あたし。」

腹から出る出血を見て、 は困ったように笑った。
周りは、天人の死体と死体から漏れる血の錆びた匂いと黒色の空。

一寸先まで此処いらは、 1人と天人大量であった。
天人は、女一人だからと云って、甘く見ていた。

こう見えても は、攘夷派の兵である。
銀時が「白夜叉」と謳われれば、 は「阿修羅」と謳われた。
二刀流で斬りつける其の姿は、真に泡沫の桜が如し。

戦いは十数分で勝負がついた。
しかし、殺したと思っていた天人一匹がしぶとく生きていた。
倒れた安心したのが間違いであった。
敵は最後の力を振り絞り、 の急所に刃を入れた。

結局は、自分の爪が甘かったのだ。
其れを嘲笑うように傷はドクドクと脈打った。




「あたし、死ぬんだろうなぁ。」

何一つない夜空に がぽつりと言葉を浮かべた。



死と云うものをあまり考えたことがなかった。

死んだ人は何処へ行くのか。
子供の頃、涅槃、極楽浄土などというのを聴かされたことがあった。
童話などでは、星になると書いてたコトを覚えている。

しかし、星は一つも無かった。

天人の戦いで死んだ人など、星にはなれなかったのだろうか。
なる価値などなかったのだろうか。

では、彼らが生きたのは…価値がないものなのだろうか?

両親も、兄弟も、友達も、仲間も…………。

皆、自分を貫き、そして死んだ。

馬鹿なコトを考えているコトなど分かっている。
しかし、心なしか、目が霞んできて、呼吸がうまくできなくて、悲しくて、独りで


淋しくて、怖かった。









「銀ちゃん」

一目だけでいいから見たい。
貴方の笑顔を思い出すと胸がきゅうっと締め付けられて
目じりがとても熱くなって視界がぼやけた。



「銀ちゃん、銀ちゃん…」

分かってる、彼はヅラと高杉のところへ行っているところくらい。




「銀ちゃ……、銀ちゃん……。」

名前を呼ぶたびに止めどもなく流れ続ける涙。
貴方を想うだけで愛しくてたまらなくなる。




!!!」

「銀ちゃん?」

うわぁ、ついに幻覚ですか。
八百万の神様、感謝いたします。
彼が来ないからと云って、このような素敵な幻を見せてくださるなんて。



しっかりしろ!!!」

あったかいなぁ。
あたしに触れる手の温もりも銀ちゃんみたいだ。

でも、これって幻覚なんだよね。
たしか坂本が天人の寓話を私に教えてくれたのに「まっちうりのじょてい」と
云う本があったよなぁ。

その人もあたしと一緒で一人で
まっち擦って
沢山の幻覚見て
自分のおばあさん(あたしは銀ちゃん)に涅槃に拉致されるんだよね

銀ちゃんが、涅槃の使いならあたし何処にでもついていくよ。



「…ぁっ」



優しい口付け。
今まで、色んな人と口付けを交わしたけど…

銀ちゃんのが一番、甘くて優しくて、好き。
あたしみたいなヤツを、壊れやすい宝物のように扱ってくれて。
あたしの名前を呼んでくれる。



夢じゃなかった…。
現だった。

銀ちゃんは、今あたしの目の前にいて、あたしを抱きしめて、
あたしに口付けをしている。

嬉しくて嬉しくて、泣いてしまう。



「ふぇ…っつ、銀ちゃん……。」

「なーに、泣いてんですか。此のお嬢さんは!」

「だって、銀ちゃん…来てくれて…、嬉しくて…。」

の瞳から流れる涙を拭き終わって、銀時はまた に口付けた。
銀時の首に腕を絡ませ、口を開け、舌を絡ませ求めた。




「しかしお前さん一人でよくやったな。」

「阿修羅だもん、やるときゃしますよ。」

「うわっ」

ふわりと身体が持ち上がったと思えば、銀時に担がれていた。
大事なものを優しく、包み込むように。


「向こうにヅラたちがいる。其処まで何とか持ちこたえてろ。」

銀時は気づいていたのだ。
の腹の怪我が早くしないと、 が死んでしまうことを。
包帯代わりに巻いた白い着物は、もぅ真っ赤に綺麗に染まっていた。













本当に静かな夜だった。
先ほどまで、此処で戦をしていたなんて誰か思うだろうか。


「ねぇ、銀ちゃん。」

「なんでぇ?」

「今から、独り事云うから、聞いててくれる?」

「いいよ。」

「銀ちゃんあたしね、銀ちゃんに逢えて幸せだったよ。」

「天人との戦で親も兄弟も友達も皆、あたしからいなくなっちゃって……


銀時の着物を握る手が強く、強く握られた。


あ、あたし……独りぼっち、なって……」




「そんなときに、銀ちゃんがあたしを立たせてくれた。」







両親も兄弟も友達も皆天人によって殺された。

あたしは、まだ小さくて、其れを認めることが出来ず

いつか、迎えに来てくれると幼いながらに信じていた。

どうにかこうにか生きていくうちに

気づいたら、私は歌舞伎町の女王になっていた。

毎日違う男と寝て、毎日、寂しさを埋めるように寝まくった。


あぁ、そう銀さんに出会ったのは煙管を吸いに外へ出た日だった。

満月でとても綺麗な夜だった。


『おじょうさん、良かったら俺と行かねぇかい?』

『いいわよ、その変わりお金いっぱいくれなきゃ厭よ。
いっぱいくれたら、何でもシテあげる。
ねぇ、いくらくれる?』

お客だと思った。
さっきシタばっかりなんだけれど、悪くはなかった。
多いときは、一日10人以上寝たことがあった。
だから、銀ちゃんが来たときも抵抗もクソもなかった。
あたしはすぐに銀ちゃんの首を絡み、妖艶な笑みを浮かべた。


『いくら出したら、お嬢さんを買えるかい?』

『…え?』

耳を疑った。
返答を待たず銀ちゃんはあたしに手を伸ばした。


『な、何よ?』

『そんなとこで地ベタ根ぇ張ってないで、銀さんと色々世界見ようぜ。』

『は…っ?意味わかんない、何?金なしなら用無いよ、消えて。』

淋しさを忘れるためのセックス、気づいたらあたしは止められなかった。
愛などないのは自明である。
性欲処理で上等。

愛のあるセックスは厭だ。
相手が愛しくて愛しくてたまらなくなる。
欲望の塊のあたしは、きっと相手を貪りつくして重く圧し掛かってしまう。

そして、何よりもぅ誰も失いたくなかった。



バサバサバサ…

目の前は、札の雨と繋がれた銀さんとあたしの手。
初めて、『人間』の温もりを感じた。
そして、誰も呼ぶはずの無いあたしの本当の名前を銀さんは云って
あたしを歌舞伎町から連れ去ってくれた。

『行こうぜ、「 」。』












「嬉しかったよぉ、とっても嬉しかったよ…おぉ……」


「銀ちゃんと一緒に馬鹿して笑ったコト
喧嘩したコト、愛したコト、愛されたコト…全部全部、忘れないからね。」

銀時の、脚が止まった。



「死ぬようなコト云うんじゃねぇよ。
まだ生きる野郎から遺書なんざ聴きたくねぇって。」

云っていることとは反対に銀時は震えていた。
銀時も馬鹿ではない、自分が矛盾しているくらい。
そして、 も。


「銀ちゃん、あたしのコトは、もぅいいから………。」

「な、何云ってんだよ。」

「銀ちゃんね、とってもとっても素敵な人だからきっと素敵な女性に出逢えるよ。
だから、そのときはね…、







どうか……其の人と今以上に幸せになって。」


「俺は、お前じゃねぇと、駄目だ!!!
頼むから、そんなこと云うな!!生きろ!!!」

銀ちゃん、何云ってるか聞こえないよ。
銀ちゃん、何で泣いてるか分からないよ。

銀ちゃん、笑って。
あたし、銀ちゃんが笑っている顔が一番大好きだよ。
あたしがね、死んでもいっぱいいっぱい生きてね。
あたしがね、死んでもいっぱいいっぱい笑ってね。

あたしがね、死んでもいっぱいいっぱい幸せになってね。


銀ちゃん。




「銀ちゃん、大好きだよ。」







アオイトリは、もぅいない。





コメント

忘れることが幸せなのでしょうか?
想い忘れないことが幸せなのでしょうか?
其れは、私にもわかりません。
自分の大切な人を守るために戦った人たちを
私たちは、愚弄してはなりませぬ。